九州大学大学院総合理工学府
先端エネルギー理工学専攻
温暖化ガスの監視や地震等の災害時における通信など、宇宙利用はますます盛んになると予想されます。一方、人工衛星は一機あたり数百億円と宇宙利用の敷居はまだまだ高いのが現状です。この敷居を下げる革新技術のひとつに、次世代推進機であるイオンエンジンがあります。イオンエンジンは小惑星探査機「はやぶさ」で実証されたように従来のエンジンと比較して10 -100倍燃費がよく,そのため、衛星の重量の大部分を占めていた燃料を大幅に削減でき、人工衛星の小型・高機能化をもたらします[1].
イオンエンジンの普及に向けた最大の課題は長寿命化であります。長寿命化には寿命とイオン加速用電極の形状との依存性の解明が必要不可欠ですが、従来の寿命評価方法では莫大な時間(1万時間以上)と費用(数億円)がかかるため[2]、複数回の測定が必要な依存性の調査は現実的ではありませんでした.そこでそれに代わる寿命方法が求められています.JAXAでは数値解析による寿命認定[3]を行おうとしており我々も共同研究として参加しておりますが,数値解析だけではなく,実験による検証方法も必要です.
電極材料である炭素の検出には様々な方法(水晶子マイクロバランス測定法、発光分光法、レーザー誘起蛍光法等)[4,5]があるが、測定時間が長かったり、定量測定が困難であったりとそれぞれ一長一短があり、寿命評価システムとしては不十分であった。
本研究の斬新な点であるが、光学測定法の一つであるキャビティリングダウン分光法(CRDS)法[6]を用いたイオンエンジンの寿命評価システムを構築することが本研究の目的である。CRDS法は測定感度が高く、測定時間が短く、定量測定が可能な非接触光学測定法の一つである。
イオンエンジンの電極から出てくる原子は非常に微量であり、このような微量の原子を定量的に検出できるセンサの開発は、非常に挑戦的である
我々はCRDS法を用いたマンガン原子を検出するセンサ[7]の開発において得られた知見(連続発振レーザーの利用、C/C製光学保持機構の採用等)を活用してシステムを構築する。 期待できる成果として、イオンエンジンの長寿命化並びに開発コストの圧縮が見込まれる。さらに本研究の成果により、低コスト・短期間で超小型衛星に搭載可能な小型イオンエンジンの開発が可能となり、超小型人工衛星の機能向上にも貢献する(右図)。すなわち、宇宙利用コストの大幅な低減をもたらし、地球環境の観測や水資源管理を通したグリーン・イノベーションの推進に貢献するだけでなく、充実した安全、安心ネットワークの構築や、農業、漁業などの効率化などへも貢献する。 さらに寿命評価システムは、核融合炉の壁面損傷のモニタリング[8]や、産業用としてダイヤモンドライクカーボンの作製時のモニタリングにも用いることができる。これは、非常に画期的なものであり、大変意義深い研究であると言える。