研究テーマ


超小型衛星用高性能電気推進機の開発
低コスト・短開発期間等の利点を持つ超小型衛星が宇宙利用の敷居を下げるブレイクスルーとして注目を浴びている。しかしながらそのサイズの制約ゆえに推進機は搭載できておらず、現状では大型衛星を脅かす存在とはなっていない。今後の超小型衛星の開発において、日本がイニシアティブを発揮するためには小型高性能の次世代推進が必要不可欠である。その候補として、小型イオンスラスタおよび小型ホールスラスタの開発を行っている  

(左)小型イオンエンジン   (右)小型ホールスラスタ

レーザートムソン散乱法を用いたイオンエンジン内部物理の解明 
現在のイオンスラスタ開発において、加速グリッドの耐久性が最重要課題であり、イオンエンジン加速グリッドの耐久性を評価するための数値解析ツール(JIEDIツール、 JAXA Ion Engine Development Initiative)の開発がおこなわれている。この開発に際して、イオンスラスタの放電室内部のプラズマ状態の計測は必要不可欠である。しかしながら静電プローブによる内部測定では、放電室内部のプラズマに擾乱を与えてしまい、正確な測定はこれまで難しかった。 そこで、JAXAとの共同研究として、擾乱を与えずにプラズマ諸量が測定可能なレーザートムソン散乱法を用いて、イオンエンジン内部のプラズマ状態の把握を目指している。
キャビティリングダウン法を用いた電気推進機におけるリアルタイム寿命モニタリングシステムの構築 
電気推進機の寿命はこれまでは莫大な時間(数千時間)と費用(数億円)がかかる実時間の耐久試験で評価するしかなかった。そこで申請者はコロラド州立大学との共同研究において、光学測定法の一つであるキャビティリングダウン法(CRDS法)を用いて、ホールスラスタの寿命をリアルタイムで算出できるシステムを構築し、世界に先駆けてリアルタイム寿命評価システムの実現可能性を示した。 今後は、様々な電気推進機にこのシステムを適用できるよう感度および精度の向上をはかる。
水を推進剤に用いたRFスラスタの性能向上に関する研究
貯蔵性のよさ、安価で入手しやすい、人体に無害である等の利点のある水を推進剤としたRFスラスタの開発を行っている。RFスラスタは推力電力比が大きく、電極とプラズマ電極がプラズマと接していないため、アンテナの損耗がなく、長寿命かつコンタミネーションが少なく、ガス種を選ばないため、水を推進剤として採用するには最適であると考える。性能向上のために高感度光学測定法であるCRDS法やICOS法を用いて、水プラズマのエンタルピー計測を行い、RFスラスタのエネルギー収支の解明し、性能向上を目指す。
ホールスラスタの安定作動に関する研究
多くの利点をもつホールスラスタではあるが,克服すべき課題として放電電流振動,特に数十kHzの低周波振動の低減が挙げられる。この放電電流振動は電源への負荷となるだけでなく、作動停止を招くことすらある.衛星に搭載されている今日においてもこの振動のために,スラスタの作動範囲が限定されている.この低周波の振動減少はは電離不安定性に起因するものであるが、これの克服に向けて、(株)三菱電機との共同研究を行っている。
ホールスラスタの内部物理解明の研究
ホールスラスタの内部物理は実用化された今でも、きちんと記述できるモデルが存在せず、様々な研究機関で様々なアプローチで解明へ努力されている。特に実用化が一歩遅れたアノードレイヤー型では、改善の余地が多い。たとえば安定性に寄与すると考えられているホローアノードが、なぜ安定性に寄与するのか解明されておらずそのたホローアノードの設計則は確立されていない。これらの問題も含めて、プラズマ生成領域の作動パラメータ依存性を明らかにして内部物理の解明を目指す。
核融合ロケット実用化のための研究 
 核融合反応で生成された膨大なエネルギーを磁気ノズルにおいて磁場との相互作用を利用し(固体壁との相互作用無く)運動方向を変えて推力を得ることが出来る磁気ノズルを用いた核融合ロケットは、高比推力と大きな比出力を同時に達成可能であり、惑星間航行、将来的には恒星間航行のための高速推進システムとして非常に有望である。世界有数の大型レーザー装置を用い、スラスト・スタンドを用いて推力を直接測定し、核融合ロケットの原理実証およびスケーリング則の確立をめざしている。





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