衛星の全電化により,静止衛星の2 基同時投入ならびに準天頂衛星システムのスーパーシンクロナス軌道からの2 回投入(またはLEO からの1 回投入)が可能であることが示された.複数衛星打ち上げ可能な衛星フェアリングの開発や放射線帯通過による太陽電池出力低下の問題もあるが,静止軌道などへの高高度への軌道輸送においては電気推進の高い比推力を生かすことで極めて優位な輸送コスト削減が見込まれる.一方で,打ち上げ機でドッグレッグターンを行うのではなく,軌道上で軌道面変更を行う場合には,軌道面変更にかかる速度増分が大きいため,電気推進を用いるメリットは,使用するスラスタや軌道移行期間の影響を強く受けて,一概に有利であるとは言えなくなるが,有利な領域も存在する事が示された. |
日本の次世代軌道間輸送機の主推進装置として、各大学が連携をして、大出力アノードレイヤ型推進機RAIJINの共同開発を行っている.推進機の大出力化・クラスタ化・長寿命化のための設計則の確立、大型電子源の開発、放電不安定の制御技術や軌道間輸送機への搭載技術などの研究をテーマとして取り組んでいる。 5 kW 級アノードレイヤ型推進機RAIJIN94 は通常作動域で推進効率64%@85 mN/kW を達成し、高比推力作動では加速電圧1,000 V での作動に成功した. RAIJINプロジェクトにおいて研究されている電源等の諸研究との組み合わせによる高効率化,安定作動が見込まれる.25 kW 級推進機システムの実現に向けて,さらなる研究開発の進展が期待される. |
現在,各国で全電化静止衛星とそれに搭載する電気推進の開発が活発化している.2015年,世界初の全電化静止衛星 Boeing 702SPが打上げられ,2017年にはAirbus DSも 電気推進(ホールスラスタ)のみによるO/Rを行う計画である.SSL,TAS,OHBもこれに続き全電化バスの初号機を打ち上げる計画となっており,いずれもホールスラスタを搭載する.702SPでは半年の遷移期間を要したが,主としてこれを短期化する観点から,推力電力比の大きいホールスラスタが志向される傾向にある.欧米露にてホールスラスタが開発されているが,いずれも5kW級のO/Rモードのほか,3kW級 のNSSKモードを装備している.日本としてホールスラスタを開発する上では,産業基盤の強化に向け,商業衛星市場やスラスタの開発動向を注視・把握し,かつ月惑星探査や軌道間輸送など多様なアプリケーションに向けた将来計画(ロードマップ)も踏まえた上で,開発計画を定めていく必要がある. |
世界の商用静止通信衛星市場では、従来の通信衛星に対してスループットを大幅に向上させた高速大容量のハイスループット衛星(HTS)が増加しつつある。この状況の中で、我が国の静止通信衛星が国際競争力を持つためには、従来の化学推進衛星に比べ推薬質量を大幅に低減可能なオール電化衛星技術を獲得し、打上げコストに影響する衛星質量を増加させずに多数の中継器搭載を可能とすることが必要である。平成33年度に打ち上げを目指す次期技術試験衛星では、オール電化衛星バスを開発し、軌道上実証する計画である。 |
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静止衛星や月惑星探査への電気推進の適用は米国、ヨーロッパ、並びに日本がしのぎを削る最先端分野である。小惑星探査機「はやぶさ」等で搭載されたイオンエンジンの多くは1-3kW の低電力領域で優れた特性を発揮するが更なる大電力領域ではホールスラスタが不可欠とされる。3kWクラスホールスラスタについては日本国内では東大・岐阜大・大工大・九大などの各大学とメーカでは三菱電機、IHIでの研究開発事例があり、最近では10kWいじょうの大電力動作を目指したスラスタ研究がIn Space Propulsion workshopによって実施されている 。またJAXAとIHI/IA者では衛星並びに探査機用推進系として最も需要が見込まれる3-6kW級のホールスラスタの研究開発を実施している。これらを適用する開発並びにミッションロードマップについて議論した。 |