測定手法



レーザートムソン散乱法(LTS法)

レーザートムソン散乱法は非接触のプラズマ諸量の測定方法である。 この手法は核融合プラズマなどのプラズマ密度が1019 m-3以上の高温・高密度プラズマの測定方法として発展してきた。 近年フォトンカウンティング法の適用により1016 m-3以下の低密度プラズマの測定が可能になっている。
プラズマ中にレーザー光を入射させた時、プラズマ中の自由荷電粒子は、レーザー光の電場で強制振動させられる。 その強制振動の結果、二次的な光が放射される。これがレーザー光のトムソン散乱である。 放射によって失われるエネルギーは古典理論において、電界によって加速された荷電粒子から放射されるエネルギーと同じである。 電子の質量はイオンの質量と比較して圧倒的に小さいため、電磁波による加速度は電子がイオンと比較して圧倒的に大きい。 そのため通常電子からのトムソン散乱のみ測定される。

 レーザートムソン散乱法の原理や一般的な実験装置の詳細な説明は以下の参考文献に譲るが、簡単な電子温度と電子密度の算出方法を以下に示す。
トムソン散乱の強度I T(Δλ,θ)は以下のように表される。
             (L-1)
散乱パラメータaを以下のように定義する
              (L-2)
a« 1ではデバイ長が散乱に関係する波長( 1/|k| )よりも長くなるので、個々の電子が独立に散乱に寄与する。 その結果、電子の熱運動の影響が強く反映され、電子項が優勢でイオン項は無視できる。 この場合、プラズマによる散乱断面積は電子の個々の熱運動によって決まるので、これを非協同的散乱という。 本研究で用いているレーザー(波長532 nm)、散乱角(90°)およびプラズマの典型的な電子温度Te = 0.1~ 10 eV、 電子密度ne = 1×1018 m-3 ではa« 1となり、散乱は非協同的散乱領域にある。
プラズマ中の自由電子は熱運動しているためトムソン散乱スペクトルはレーザー光からドップラーシフトしている。 そのため、散乱スペクトルは電子の速度分布を反映している。ドップラーシフトΔλは以下のように表わされる 
                  (L-3)
電子密度neの算出には、トムソン散乱実験と同様の実験配置下で、レーリー散乱断面積が既知の気体によるレーリー散乱光強度を観測して、 受光系の絶対校正を行う。中性粒子密度n0の気体からのレーリー散乱光強度 は、
               (L-4)
よって電子密度は以下のように算出される 
               (L-5)
本研究では、空気(窒素、酸素)によるレーリー散乱を計測しているが、 ルビーレーザー(波長694.3 nm)で計測された窒素と酸素の散乱断面積の比( )はそれぞれ380と462であった。 この結果を波長532 nmでの微分断面積の比に換算すると、それぞれ131と159となる。この値を用いて電子密度を算出することができる。


キャビティリングダウン法(CRDS法)

キャビティーリングダウン分光法は下図に示すような2 枚の高反射ミラー(反射率>99%以上)で光学キャビティーを構成し、 閉じ込められた光は反射の度に少しずつ強度を減衰させながら反射を繰り返す。 反射の際に一部の光はミラーを透過してくるので、その強度の減衰を観測することでキャビティー内にある物質の密度および速度を測定する方法である。 この手法を応用することによって、ターゲットサンプルの密度および速度が高精度で計測することができる。

キャビティーリングダウン分光法の概念図
リングダウン法はキャビティ内から漏れる光の強度が指数関数的に減衰していくその減衰率S(t,ν)を測定することによっても止まる。 

      (C-1) 

ここでνはレーザの周波数、τはリングダウン時間と呼び、1/eになる時間、cは光速、lはキャビティの長さ、線積分の方向xはビーム方向、 k は吸収係数、1-Rはミラーのロス(散乱やキャビティロスを含む)である。

吸収される物質の線密度はリングダウンタイムの変化から計算できる。吸収体が長さlabs,の柱状態では均一であるとすると、∫k(x,n)dxは k(n)・labs となる。 実際、測定されたリングダウン信号は指数関数でフィッティングされ、リングダウン時間τが求まる。 τとτ0から、サンプルの吸収度Abs(ν)と吸収係数が求まる。

         (C-2)

 レーザーの周波数をスキャンし、得られた吸収度のプロファイルを積分することにより、 レーザーの通り道上で積分された下順位の密度∫Ni dxが以下の式で求められる。 

             (C-3)

ICOS法

吸収分光法を発展させた計測方法として,Integrated cavity output spectroscopy (ICOS)がある。 ICOSは2 枚の高反射ミラーを用いた高感度吸収分光法のうちの一つである。 測定対象の両端に2 枚の高反射ミラーを平行に設置して,光学キャビテーを形成する。 その概念図を下図に示す.ICOS の場合,レーザーの軸をずらすことにより入射された光は多重反射セルに光を入射した際と類似した光路反射を する。しかし,多重光路反射セルとは異なり,入射された光は光学キャビティーの外へと抜け出ることなく,光学キャビティー内を反射し続ける.光学キャビティ ーの間をレーザーが何度も往復することにより,吸収光路長が大幅に稼げることになる。 それにより検出精度はLAS よりも格段に向上する。